■ひきこもり、非行少年、家庭内暴力、心身症、人格障害、自殺、これらの根底には自己評価の極端な低さがある。

「自己評価」とは、自分は生きている意味がある、存在価値がある、自分は大切な存在だ、必要とされている、という感覚のことである。

自己評価が高ければ、私たちは比較的安定した気分で過ごし、物事を積極的に行い、困難にも勇気を持って立ち向かうことができる。その反対に自己評価が低ければ、私たちは不安を感じ、日常生活のなかでもうまくいかないことが多くなる。

ここではフランスの精神科医クリストフ・アンドレとフランソワ・ルロールの共著『自己評価の心理学』を参考にしつつ自己評価のメカニズムについて解説する。

まず自己評価には二つの種類がある。「愛情に関する自己評価」と「能力に関する自己評価」である。

「愛情に関する自己評価」とは、自分には存在価値がある、人から愛されている、というように“人格そのもの”に関する自己評価であり、すべての自己評価の基礎となる最も重要な要素である。<自分を評価する>という言葉のなかには、<自分の能力や行為に価値判断を下す>という部分が含まれてくる。したがって、いつでも自分を高く評価できるわけではない。だが、<自分を愛する>ということには条件がつかない。どんな欠点があっても、能力に限界があっても、またどんな失敗をしても、人は自分を愛することができる。<私は人から愛され、大切にされるのにふさわしい・・・>。心のなかでそう小さな声がささやくからだ。このように“無条件に”自分を愛することができるからこそ、人は逆境に耐え、挫折を乗り越えることができる。もちろん、困難な状況に直面すれば、不安や苦しみを味わったりすることもあるだろう。しかし、絶望に打ちひしがれて、そこから立ち直れなくなることはないはずだ。

といっても、人は生まれたときから<自分を愛する>能力を身につけているわけではない。あとで詳しく述べるように、<自分を愛する>ことができるかどうかは、子どものころに家族からどれほど、<愛情の糧>を受けたかによって決まる部分が大きい。

■自分を愛する力が発達する要因
子どもの頃に両親などから、どのくらい、またどんなふうに<愛情の糧>を受けたか。
■自分を愛する力が十分備わっている場合の効果
感情的に安定する。他人との関係がうまくいく。批判されたり、拒絶されたりした時に持ちこたえることができる。
■自分を愛する力が十分でない場合の結果
自分が人から愛されるとは思えない。何をするにも自分は決してうまくいかないと考える。たとえ成功しても。自分がつまらない人間のように思える。

次は「能力に関する自己評価」について解説するが、これには2種類ある。<自分を肯定的に見る>力と、<自信を持つ>力である。

<自分を肯定的に見る>とは、<自分の長所や短所を判断したうえで、自分に肯定的な評価を与えること>。これが自己評価の二本目の柱である。だが、ここで大切なのは、その判断に客観的な根拠があるかどうかではない。そうではなく、これが自分の長所や短所だ、能力や限界だ、と判断するのにどこまで確信を抱いているか、そのほうが問題になる。その意味では、客観的な要素よりは主観的な要素のほうが重要な役割を果たすのである。だからこそ、劣等感の強い人(つまり否定的要素を強調して考える人。たいていの場合、自己評価が低いことが多い)は、本人だけが思い込んでいる自分の欠点を言いたてて、周囲の人を困らせるのだ。

一般に、<自分に対する見方>には、幼い頃からの家庭環境、とりわけ両親の期待が関係している場合が多い―すなわち、両親の期待に応えることができたかどうかで、<自分を肯定的に見られるかどうか>が決まってしまう。

両親はほとんど無意識のうちに、自分たちができなかったこと、果たせなかったことを子どもにさせようとすることがある。その場合、子どものほうはいわゆる<使命を負った子>になる。たとえば、お金がないことを苦にする母親が金持ちの息子とつきあうよう娘をそそのかす。あるいは、かつて学業に失敗した父親が名門中学校に息子を入学させようとする。もちろん、こういった両親の望みは、それが強制されることなく、また子どもの能力や希望を考えに入れたうえで果たされるのであれば問題ない。だが、そうでない場合は、子どもは親の期待に応えられないことに苦しみ、自己評価を下げることになる。

■自分を肯定的に見ることができるようになる要因
両親から期待され、自分の能力を信じてもらえたか(ただし、その能力が実際の期待に比べて過剰ではなかったか)
■自分を肯定的に見ることができる場合の効果
将来に対して積極的な目標を掲げ、それに邁進することができる。障害にぶつかってもくじけない。逆境に耐えることができる。
■自分を肯定的に見ることができない場合の結果
人生に関わる選択で積極性に欠ける。他人の意見に左右されやすい。自分が決めたことを粘り強く続けることができない。

最後は、<自信を持つ>。自己評価の三本の柱のうち、この要素は私たちの行動に密接に結びついている。というのも、<自信を持つ>とは、<自分の決断に確信を持てる>、すなわち<どんな重要な局面でも自分は適切な行動を取れると信じることができる>ということでもあるからだ。「私の息子には自信がない」とある母親が言うとき、その息子は要求された行動ができるかどうか、自分の能力を疑っているのだ。この<自信を持つ>という要素は、<自分を愛する>や<自分を肯定的に見る>という要素にくらべると、比較的見きわめやすい。ある人が<自信を持っている>かどうかは、その人物が新しい状況や思いがけない状況、難しい状況にどう対応しているかを観察すればよいことだからだ。

<自信>がなければ、人は<行動する>ことができない。だが、自己評価を維持し、あるいは高めるには<行動する>ことが必要である。より正確に言えば、<行動して成功する>ことが必要である。つまり、日常生活における様々な行動やその小さな成功が、自己評価を支える栄養の補給源となるのだ。そのためには、まず<自信を持つ>ことが重要になる。

では、この<自信>はいったいどこからやってくるのか? 別に難しく考えることはない。学校や家庭の教育の場で培われるのだ。たとえば、子どもに対して、失敗は決して取り返しのつかないものではなく。行動した結果、失敗することもあり得るということがあらかじめ伝えられているかどうか? 成功したことよりも挑戦したことのほうに高い価値がおかれているかどうか?  挑戦してもなかなかうまくいかないとき、こんなことならやらなければよかったと子どもに思わせずに、失敗からうまく教訓を引き出してやることができるかどうか? そういったことが問題になるのである。これには親や教師が模範を示すことも大切になる。自ら模範を示さずに、ただ口で「失敗を受け入れろ」と言っても、あまり意味はない。子どもは大人の態度を見て学んでいくのである。こうして<自信を持つ>ことができるようになったら、その人間は未知の状況や困難な状況を過度に恐れることがなくなる。

■<自信>が培われる要因
挑戦してみる、根気よく続ける、失敗を受け入れるなど、<行動>するための基礎を学んだか。
■<自信>が十分備わっている場合の効果
日常生活の様々な局面で、気軽に、またすばやく行動することができる。失敗してもくじけない。
■<自信>が十分でない場合の結果
行動することができなくなる。さんざん迷ったすえに行動しても、うまくいかないとすぐにあきらめる。粘りがない。

以上の三つの要素がバランス良く配合されていないと、自己評価はたちまち不安定なものになる。たとえば、<自分を肯定的に見る>ことができない場合、その人物が持っている<自信>は表面的なものにすぎないので、何かの障害にぶつかると、<自己評価>は崩れてしまいやすくなる。

あるいは、その反対に<自分を肯定的に見る>ことだけが突出している場合―この場合は、たとえ<自分を愛する>ことができなくても社会的に成功する可能性は高い。だが、それでも恋愛関係に失敗したりすると、いったんは封じ込めたと思っていた自分に対する不安やコンプレックスが頭をもたげてくるだろう。

また、<自分に自信が持てない>場合は、どれほど愛情に恵まれていようと、行動をとることができなくなり、その結果、<自己評価>は著しく下がることになる。たとえば、両親から愛されて立派な学歴を得たとしても、甘やかされて過保護に育っていれば、現実に立ち向かう勇気が出ず、いつまでたっても自分の能力に疑いを持つようになる。そうなったら、新しいことに挑戦することもできず、そのせいでまた<自己評価>が下がるという悪循環に陥ることになるのである。

次は、自己評価の高い人や低い人が、ある状況においてどのような特徴をもつか解説する。

【自分について訊かれたら、どうように返事をするか】
■自己評価の低い人
・自分のことがよくわからないと感じている。
・自分についてどちらかというと中立的な話し方をする。
・自分のことを言うのに、曖昧で、確信がなさそうな話し方をする。これは社会的な評価を恐れているからだ。つまり、自分が優れていると言ったら高慢だと思われる。その反対に悪いところを言ったら劣った人間だと思われると思っている。それと同時に、上記のように自分のことをよく知らないからでもある。
・答えが返ってくるのが遅い。しかし誰か他の人のことを質問すると、もう少しすばやく、はっきりした答えが返ってくる。
・自分について矛盾したことを言うことがある。
・自分に対する判断はあまり安定していない。
・状況や相手によって、自分についての価値判断や話し方が変わる。自分の意見を主張するより、他人からどう思われるかのほうを優先しているからである。
<短所>曖昧で、ためらいがちな印象を与える。
<長所>話し相手に合わせることができる。ニュアンスを表現できる。

■自己評価の高い人
・自分についてはっきりした考えを持っている。
・自分について肯定的な話し方ができる。
・自分のことを言うのに、はっきりした話し方をする。
・自分について話す時には、だいたい首尾一貫している。
・自分に対する判断はかなり安定している。
・どんな状況で、どんな相手に対してでも、自分についての価値判断や話し方があまり変わることはない。
<長所>はっきりして、安定した印象を与える。
<短所>自信がありすぎる。物事を単純化しすぎる。相手を不快にさせることもある。

【行動するときにどんな態度をとるか】
■自己評価の低い人

・何かをしようと思ったとき決断するのに時間がかかる。決断を先延ばしにする。
・いくつかの選択肢の中から何かを選ばなければならない状況で困難を感じる。<正しい選択>と<間違った選択>があらかじめ決まっており、間違った選択をした場合には取り返しのつかない事態に陥ると思い込むことがある。しかし現実にはほとんどの選択には長所と短所があり、選択が正しいものになるか間違ったものになるかはその後のやり方によることが多い。
・自分が選択したことの結果が心配になることが多い。
・何かを決めるときに、まわりの意見を求めすぎる。
・一度しようと決めたことでも、障害にぶつかったら、すぐにあきらめる。
・自己評価の低い人は自分の思い入れではなく、社会的な制約に従って、決まったことを続ける場合が多い。それは興味の持てない仕事だったり、あまり幸福でない結婚生活だったりすることもある。こういった状況を、自己評価の低い人は、“一度決まってしまったから”という理由で変える決心がつかないのだ。それまでの自分の行動に縛られやすいといえる。
・まわりの状況に従うことが多い。
<短所>因習的。優柔不断。
<長所>慎重で、よく考えたすえに行動できる。辛抱強い。

■自己評価の高い人
・何かをしようと思ったとき、すばやく気軽に決断できる。
・いったん選択してしまった以上、それがうまくいくよう、できるだけ努力する。
・決断にあたっては、自分の意見を大切にする。
・一度すると決めたら、どんな障害があっても粘り強くやりとげる。
・自分のためにならないと思ったら、まわりの状況に反対することも厭わない。
<長所>革新的。
<短所>目先の利益にとらわれやすい。

【失敗や批判に対してどんな反応を示すか】
■自己評価の低い人

・失敗がわかった直後には、がっかりするなど感情的な反応を示す。
・失敗の経験は感情的な傷跡を残す。
・自分の得意分野では特に完璧を目指しているので、批判を受けると一気に崩れる。
・自分自身に対する否定的な情報を求める。
・失敗をしたあとで言い訳をする。
・失敗をしたあと、「あの人はうまくいったのに!」と、自分と成功した人間を比較する。
・批判されると、はねつけられたように感じる。
・他人の評価を気にかける。自己評価の低い人が何かをしたいと思ったとき、他人から見られているかどうか、あるいは他人から評価される状況であるかどうかで、その行為をするかしないかが変わってくる。すなわち、他人の視線や評価を気にしなくてもすむ状況であれば、自己評価の低い人も安心して行動することができる。これは自己評価の低い人がいつも他人から批判されるリスクを頭に置いて行動の基準を決めているからである。それと同じ理由で自己評価の低い人はあまり競争することを好まない。負けるかもしれないくらいなら競争に参加しないほうを選択するのだ。
<短所>批判を気にしすぎる。また批判を先取りするところがある。
<長所>失敗を避けるよう努力する。批判的な意見に耳を傾けることができる。

■自己評価の高い人
・失敗がわかった直後には、がっかりするなど感情的な反応を示す。
・失敗の経験は感情的な傷跡を残さない。
・欠点を批判されても耐えることができる。あるいは積極的に自分を守ることができる。
・自分自身に対する否定的な情報を求めない。
・失敗をしても言い訳をする必要を感じない。
・失敗をしたあと、「自分じゃなくても、ほとんどの人間が失敗したはずだ」と思う。
・批判されても、はねつけられたようには感じない。
・他人の評価を気にかけない。
<長所>批判に強い。
<短所>批判に耳をかさない傾向にある。

【成功に対してどんな反応を示すか】
■自己評価の低い人
・成功することが好き。
・成功すると、自分自身に対して抱いていたイメージが混乱する。
・成功したり、ほめられたりすると困惑する。その理由は、自己評価の低い人が成功や賞賛を経験すると、いわゆる<認知的不協和>と呼ばれる。ジレンマに陥ってしまうからである。すなわち、自分自身に対する否定的なイメージと成功やほめ言葉からもたらされるイメージとの間に違いがありすぎて、その違いに困惑するのだ。それはまた。自己評価の低い人がそのあとにくるものを予測してしまうからでもある。つまり、成功したり、賞賛を受けたからには、それに見合う働きをして責任を果たさなければならないと考えてしまうのだ。
・自分はこの成功にふさわしくないのではないか、この状態は長続きしないのではないかと不安になる。
<短所>成功してもなかなか喜ぶことができない(不安な幸福)。成功の経験によって自己評価が高くならない。
<長所>謙虚である。

■自己評価が高い人
・成功することが好き。
・成功すると、自分自身に対して抱いていたイメージが補強される。
・成功したり、ほめられたりすると嬉しくなる。
・その成功に自分がふさわしいかどうか、その状態がいつまで続くのか、そういったことはあまり考えない。
<長所>さらに成功したいという気持ちを持つ。成功の経験によって、さらに自己評価が高まる。
<短所>賞賛に依存する恐れがある。(ほめられないといられない)

【自己評価と人生への対し方】
■自己評価の低い人

・失敗を恐れる。
・安心するために下を見る。
・リスクを回避する。
・習慣に従っていると、安心する。
・なにごとにおいても中庸であることを願う。その反対に、他人と比較して欠けている点があると気になる。
<短所>失敗すると自主規制するので、進歩が遅い。
<長所>慎重で、抑制がきいている。

■自己評価の高い人
・成功を欲する。
・向上するために上と比較する。
・リスクを引き受ける。
・新しい経験をすると、刺激を受けて良かったと感じる。
・自分が得意にしている分野で成功することを好む。それ以外の分野では、失敗してもあまり気にしない。
<長所>成功するとさらに先を目指すので、進歩が速い。
<短所>無鉄砲。いろいろなことに手を出しすぎる。

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