伝染する群生秩序

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内藤朝雄『いじめの構造』より

1—「わたし」に侵入して内側から変えてしまうもの

第1章では、狭い空間で生きる生徒たちが生み出す小社会の秩序を、いじめの事例から浮き彫りにした。ここでは、この秩序においてはたらく心理‐社会的なメカニズムをくわしく説明しよう。

寄生する生物たち

イメージをわかりやすくするために、寄生虫の例を挙げることからはじめよう。寄生虫がいつのまにか自分のなかに侵入し、わたしの内側からわたしを操作して、わたしにおぞましい生き方をさせてしまうとしたら、これほど不気味なことはない。

イギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスは、『延長された表現型』(紀伊同感書店)で、このような世界を描いている。彼によれば、「中間寄生を合んだ生活環をもっている寄生虫は、その中間寄生からあるきまった最終寄生へ移動しなければならないが、しばしば中間寄主の行動を操作して、その最終寄主にその中間寄主が食べられるようにうまく仕向けている」。ドーキンスは、いくつかの不気味な例を挙げている。

■リューコクロリディウム属の吸虫は、カタツムリに寄生した次に、鳥に寄生する。この吸虫がカタツムリの角に侵入すると、暗いところを好むカタツムリが、光を求め、日中に活動するようになる。そのためにカタツムリは鳥に発見されやすくなる。鳥はカタツムリの角を食いちぎって食べる。こうして吸虫は、鳥の体内にはいる。カタツムリは吸虫によって、光を求めるように内側から操作されたと考えられる。

■ミツバチに寄生したハリガネムシの幼虫は、成虫として水中で生活するためには、ミツバチの表皮を突き破って外に出て、水中に入る必要がある。ハリガネムシに寄生されたミツバチは、しばしば水に飛び込むことが報告されている。一匹の感染したミツバチが水たまりの方へ飛んで行き、水中ヘダイヴィングした。その直接の衝撃で、ハリガネムシはミツバチのからだを破って飛び出し、泳いでいった。重傷を負ったミツバチはそのまま死んでしまった。

■鈎頭虫類ポリモルフス・パラドクススは、淡水のヨコエビを中間寄主とし、最終寄主は、水面の餌を食べるマガモや、マスクラット(げっし類の哺乳動物)である。寄生されていないヨコエビは光を避け、水底近くにとどまる習性がある。ところが、ポリモルフス・パラドクススに寄生されたヨコエビは、光に接近するようになり、水面近くにとどまり、水草に執拗にまとわりつくようになる。その結果、ヨコエビはマガモやマスクラットに食べられやすくなる。

あわれなカタツムリやミツバチやヨコエビは、寄生した生物の遺伝子の「延長された表現型」、あるいは「乗り物」として生きさせられる。さて、これらのおぞましい例は、他の生物が寄主に寄生する話である。

だが、社会が寄生虫であるとしたら!

つまり、わたしたちが集まってできた社会が、いつのまにかわたしに侵入し、内側からわたしを操作して、おぞましいやりかたで生きさせてしまうとしたら、それは吸虫やハリガネムシやポリモルフス。パラドクスス以上に不気味である。実際、学校に軟禁されて生徒にされてしまった人たちが織りなす小社会の秩序は、しばしば、これらの寄生虫と同じ作用をおよぼす。次にいじめをしている女子中学生の例を見てみよう。

【事例6・何かそれ、うつっちゃうんです】
「ひとりやったらできへんし、友だちがいっぱいおったりしたら、全然こわいもんないから。何かこころもち気が強くなるっていうか、人数が多いってことは、安心する、みたいなんで。一回いじめたら、止められないっていうか。何か暴走してしまうっていうかな」
「友だちに『あのひと嫌い』って言われると、何かそれ、うつっちゃうんですよ」
(NHKスペシャル「いじめ」いじめの加害者である生徒のインタビューより、一九九五年一〇月一日放映)

この女子中学生は、「友だち」と群れていると、カタツムリが日中に徘徊し、ミツバチが水に飛び込み、ヨコエビが水面で水草にまとわりつくように暴走して、いじめが止まらなくなる。友だちに「あのひと嫌い」と言われると、「何かそれ」がうっってしまう。生徒たちは、白分たちが群れて付和雷同することから生じた、心理−社会的な秩序の「乗り物」になって生きる。このように個をとびこえて、内側から行動様式が変化させられてしまうことを、図2のようにあらわすことができる。

図2 個をとびこえた内的モードの変換


カタツムリの場合、吸虫の情報が個をとびこえて内部にはいり、内的モードが変化したのである。それと同様に、女子中学生の場合、「友だち」の群れの場の情報が個をとびこえて内部にはいり、内的モードが変化した。「何かそれ、うつっちゃうんですよ」という発言は、群れに「寄生され」て内的モードが変化させられる曖昧な感覚をあらわしている。

学校の集団生活によって生徒にされた人たちは、
1.自分たちが群れて付和雷同することによってできあがる、集合的な場の情報(場の空気!)によって、内的モードが別のタイプに切り替わる。と同時に、
2.その内的モードが切り替わった人々のコミュニケーションの連鎖が、次の時点の集合的な場のかたちを導く。
3.こうして成立した場の情報が、さらに次の時点の生徒たちの内的モードを変換する。



この繰り返しから、前ページ図3のような、心理と社会が形成を誘導しあうループが生じる(図3は単純化して描かれているが、実際は螺旋状のループである)。これは、個を内部から変形しつつ、個の内側から個を超えて、社会の中で自己組織化していくシステムである。以下の各節では、学校で生徒にされた人たちの生に即して、いかなる内的モード(心理)が、どのように、どのような領域で連鎖するのかを、よりくわしく考えていこう。
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管理人メモ:
★市民社会の秩序モード→群生秩序モードへと切り替わる。
★同調力が高い→内的モードが切り替わりやすい。

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