オーストラリア流のストライキ

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杉本良夫『進化しない日本人へ』より

ストライキ

トリデとしての家族の層の厚さと労働運動や市民運動の強さには、相関関係があるように思われる。オーストラリアは労働組合の力が強く、労働争議も頻発しがちだ。この点をとらえて、日本の企業は、ことあるたびに豪州の労組攻撃をやっている。しかし、家族、コミュニティ、職場を結ぶ連帯型の集団主義が生きつづける限り、労組懐柔はむずかしいだろう。ストライキといっても、企業別組合ではなく、職業別組合が主流だから、ときどき意外なことが起こる。

メルボルンの市心に用事があって出かけようとしたのだが、車は妻が使っているので、電車で出かけることになった。電車は東京のJRぐらいの大きさだが、ふだんはガラ空き。夏の暑い日など、ドアを開けたままで走っていることもある。私たちの家の近くのマクラウド駅まで歩いていき、乗車前に切符を買おうとしたが、窓口が閉まっている。駅にはいる入口では特に改札というのはないので、とりあえず来た電車に乗りこんだ。市心のフリンダース駅まで、およそ半時間。下車すると、ふだん切符を集めている人たちが全然いない。変だなと思いながら駅を出た。無賃乗車である。駅頭で夕刊を買ってみると、なるほど、切符の販売改札人組合がストにはいっているという。この組合は電車の運転手の組合や車掌の組合とは別なので、電車は走っているが、乗客のほうは切符不要ということに相なったのだ。

似たようなことは、メルボルン空港でもあった。アメリカから来た友人が帰国するので送っていったときのことである。ふだんは国際線への搭乗の前に、エアポート・タックスを二〇ドル払わなければならないのに、その発売所が閉まっている。出国税の売場である。飛行機は出たり入ったりしているのに、おかしいな、と思っていたら、税事務吏のストなのだそうだ。こういう職業の人たちだけが争議をやっているので、乗客は無税で飛行機に乗ってよろしい、ということだった。友人は「すこしもうかったな」といいながら、出国手続のコーナーヘ喜んで歩いていったものだった。

ラジオのニュース・ジャーナリストの組合がストをすると、例えば日本のNHKにあたるABCの一般番組は普通にやっているが、ニュースの時間だけは、レコード音楽を流しているというようなことがある。職業別組合だから、ある職種に属している人たちだけがストをやる。どの企業に属しているかということとは関係がない。

こういう仕組みになっていると、どういう職種が社会の機能に大切な役割を持っているかが、よくわかる。例えば、一九七〇年代の終わりや八〇年代の中頃に、ガソリン・スタンドヘのガソリン輸送トラックの運転手の争議があった。各スタンドのガソリンがあっという間に干上がってしまい、車社会のオーストラリアは大混乱。ふだんは車で出勤するサラリーマンも電車やバスを利用し、買い物も近くの店ですこし買いこんですませるという耐乏生活が二週間ほど続いた。

飛行機の管制塔の発着制御員というのも、社会機能から見ると重要職種である。彼らのストライキが発生するたびに、飛行機が発着できなくなる。だから、フライト・コントローラーの労働争議というのは、オーストラリアでは大変な事件だ。大都市の間を結ぶ主要交通機関は飛行機なので、これが動かないとなると、日本でいえば、JRのストなみの影響が出る。

こういうストライキが起こっても、一般市民は全般に平然としたものだ。労働者は争議権を持っているということを、人びとがはっきりと認めていて、スト反対で騒ぎ出すということはあまりない。

労働争議権が、どういう集団にまで広がっているかを見つめることによって、社会内の人権感覚の幅を計ることができるかもしれない。そういう意味では、一九八五年の末に起こった盲人労働者のストというのには、私も舌をまいた。ビクトリア州には、盲人労働者組合というのがあり、メンバーは約一二〇人。この組合は盲人労働者の賃上げを要求してピケを張り、警官隊が出動して、逮捕者まで出る騒ぎとなった。この光景はテレビ・ニュースにもなり、私もたまたま見ていたのだが、盲人がピケから引き抜かれていく様子は、正視に耐えない。結局、盲人グループの要求が通って、賃上げが認められた。

社会の周辺部にいる盲人が、人間としての権利を主張し、それが受けいれられる背景は複雑だ。あえてその理由をあげろといわれれば、唐突だが、私は民族間の共存的寛容をあげる。それに、もうひとつ。男女間の地位の接近、つまり女性が職業の場で男性と競合してきていることと、全く無関係だとは思えない。民族間、男女間の平等化運動は、あらゆる少数派グループの権利主張に、論理的な根拠を与えた。

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