フランス流の休暇の過ごし方

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宮本政於『在日日本人』より

休暇の効用—あるフランス人との会話

「どうして日本人は休暇も取らずに、いつも同じような人とばかり会っていているのですかね。日常生活の幅が狭くなり、つまらない人生を送ることになりませんかね」日本企業に勤める知り合いのフランス人が私に言った言葉である。この言葉に刺激され、私たちはヴァカンスについていろいろと話した。

 「私たちは普通一か月ほど夏休みを取ります。今までの仕事から解放される。これがなんとも言えないのです。一週間ぐらいの短い休暇ではとても味わえないのですが、一力月ともなるとこれまでの気分とはまったく異なった気分に浸ることができます」
 「私も同感です。二週間目ぐらいですね、気持ちの中に変化が起こるのは」
 「家族と一緒に一か月以上を過ごしていると、ふだん自分の生活で見ることのできなかった部分が見えてきて、より一層お互いを理解できるようになります」
 「お互いの気持ちがヴァカンスによってより深まるのも、フランス社会が家族を中心とした個人主義が徹底しているからでしょう。だからこそそうした心の変化が起こるのだと思います。でも、日本の家族は核家族どころではなく、家族一人ひとりが孤立した生活を送っています。一か月も一緖にいたらコミュ二ケーションが増すどころか、逆効果かもしれません」
 「えっ、逆効果とは」
 「ある四十代の女性から聞いた話ですが、旦那さんとのコミュニケーションは、子どもが生まれたのを境として、ほとんどなくなったのだそうです。『主人は給料を運ぶロボットみたいなものですよ』と陰口をたたいていましたが、結構本音が聞こえるのです。コミュニケーションが断絶しているからこそ結婚生活が成り立っている、という不思議な関係の夫婦が多いらしいのです。そんな間柄の人が急に一か月も一緒に過ごしコミュニケーションができてごらんなさい、お互いをより深く理解するどころか、逆に離婚に結びつくという笑えない状況を招いたりすることもあるのです」
 「いや、日本は不思議な国だ。われわれラテン民族の理解の範疇を超えますね。でも離婚の危険性が多くなるとか家庭が崩壊するから長期休暇は取らないほうがよいとの考えはちょっと異常ですよ」
 「家庭が崩壊するというのは、ちょっと飛躍があるかもしれません。でも、そうした危機を回避するためにも長期休暇は取らない、というのは確かにどこかおかしいのです。まず長期休暇が最初にありきであって、そこで家族の中で問題が起こったとしても、長い目で見れば良い方向に向かうのでしょう」
 「そう、長期休暇を取ることが問題を引き起こすこと自体が日本社会の問題点であると言えますからね」
 「そこで長期休暇の効用ですが、具体的にどのようなものが上げられますか」
 「たとえば私はボリューというところに小さな別荘があるのですが、そこで約四十日間ほど過ごします。ですから子どもたちも夏休みはそこで過ごすのです」
 「ボリューと言えば南フランスで二ースの近くでしょう。いいところですね」
 「南フランスと言ってもピンからキリまでありますし、われわれ庶民はベッドルームが二つしかない質素な別荘です。本当のお金持ちはアンティーブとかブルター ニュ地方に別荘を持つのです」
 「私も何度か南フランスに行ったことがありますが、いつも三、四日の駆け足旅行です。ゆったりした環境で四十日も過ごせばさぞかし発想が豊かになるでしょうね」
 「創造性を刺激しますね。家のペンキを塗り替えるとか、壁紙を張り替えるとか簡単なことでも創造性を育みます|
 「私もアメリカにいたときよく二〜三週間の休暇を取って旅行に行きましたが、確かに物事を違った角度から見られるようになります。発想の転換に休暇は最適ですね」
 「それに仕事に追われている生活をしていると、ふだんできないことがたくさんあるのです。たとえば、本を読みたい、オペラを見たい、美術館で時間を過ごしたいなどいろいろあります。だれからも邪魔をされずに、そのようなことに時間を割けることが休暇の最大の魅力とも言えるのです」
 「仕事、仕事ばかりでは文化と教養が身につかないことは事実ですね。日本人は教育程度は高いのですが教養となると残念ながら欧米には劣るのです。長期休暇が取れるような環境が早くできればもっと文化が育つようになるのでしょう」
 「ところでストレスの専門家を前にして私が言うのもおかしいのですが、休暇はストレス解消に役立ちます。とくに日本社会は集団社会で個人の自由がない。そのような環境での潜在的なストレスは相当なものではないですか」
 「おっしゃるとおりですね。日本の組織社会は自分の意思にかかわらず集団の意向に従わなければならない、まあ一種の全体主義みたいなものですから、そこから生じるストレスはかなりでしょう。集団主義の権化である官僚組織では、管理職の自殺が結構あります。だれにも言えないストレスで悩んでいる人たちはかなり多いはずです

このフランス人との会話は、「そもそも、人はいったいなんのために働くのだろうか」との問いかけになり、お役所の非人間的な生活環境をちょうど際立たせることにもなったのだ

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